I. 既存のスタイル
これまでの、電気・電子系、情報通信系のシステムは、メーカー製のシステムを一括採用することが一般的であった。一括受注を目指すメーカの営業戦略によって
(a) 他メーカ機材との接続が困難なシステムが受注メーカにより構築され、
(b) 設計監理会社、エンドユーザがこれを選択せざるを得ない状況にあったためである。
これらの既存システムでは、メーカが設定した基本機能にユーザ側は、ほとんど手を加えることができず、新たな機能の追加には、相当のコストが発生する。また、異機種間接続が戦略的に制限されているため、機能の統合が必要であるにも関わらず、それぞれの分野(たとえば、電力、プラント、空調等)に強いメーカの機材を個別に設置し、ユーザが単独で運用せざるを得ない。
これでは、設計監理会社は、メーカに価格も含めてシステム構築のキャスティングボートを握られたことになり、エンドユーザにとって機能的、もしくは価格的に不満足であり、機能拡張も制限されたシステムの使用を強要されることになる。
II. コンピュータ分野での変革
コンピュータの世界では、1990年代に入って、ダウンサイジングという汎用大型コンピュータからワークステーション(小型機)の置き換えが進み、汎用大型コンピュータだけで商売をしている会社は、現在は、無くなってしまったと言える。
1990年代入ってダウンサイジングが加速した理由の要点は、以下のとおりである。
・ 標準化技術の採用
学術団体などで国際的に標準化されつつある最新の技術と、これまでに標準化されている技術を状況に応じて取捨選択しながら、システムを設計監理する。標準化技術によって開発されたシステムをオープンシステムと言う。オープンシステムでのシステム構築では、下記に述べるマルチベンダ、マルチプラットフォーム技術と密接な関係がある。
・ マルチベンダ
標準化技術によって開発された製品は、例えば配管の直径、材質などの標準があるように、装置のインターフェース(分界点)も、当然標準化されているので、それぞれのメーカの得意な分野の装置を有機的な結合させ(接続して)高性能かつ安価なシステムを構築することができる。このように、複数のメーカの装置を利用してシステムを構築することをマルチベンダによるシステム構築と言う。
・ マルチプラットフォーム技術
標準化技術によって得られるものは、機器、部品などのハードウエアだけでなく、ソフトウエアを構築するためのプログラミング言語、プログラミング手法も標準化されている。標準化されたプログラミング言語・手法は、特定のコンピュータの機種で動作することを目的としておらず、複数のコンピュータの機種(プラットフォーム)で動作するために標準化を図っている。複数のコンピュータの機種で動作するプログラムをマルチプラットフォームで動作するプログラム(または端に、マルチプラットフォーム対応)と言う。
・COTS=Comercial Off The Shelf(民需量産品の活用
COTS(コッツ)とは、元々は、航空宇宙、軍事の用語であった。
1990年代以降、米国連邦政府は、主に航空宇宙分野、軍事分野の調達において、積極的にCOTSを採用し始めた。COTSとは、民需量産品を航空宇宙分野、軍事分野において利用するもので
(1) 要求性能と価格の取捨選択(トレードオフ)によって製品の価格を下げる。
(2) 修理を容易に進めることによって維持費の低減を図る。
(3) 民需量産品に利用されている最新技術を導入する。
(4) 目的のシステムを開発するための専用部品の開発に要する期間を短縮する。
の目的をもっている。
現在では、一般市場においてのCOTSの意味は、産業用グレードまたは特注品の代わりに汎用市販品を利用してのシステム構築を指し、前項に挙げた航空宇宙分野、軍事分野での目的と何ら変わらない。
※COTSは、米国において軍事用語として一般化しているが、業務用機器においては、量産品を指す言葉としてOTS=Off The Shelfが使われることがある。
III. これからの設計監理のスタイル
どの分野でもそうであるように、既存の、施主に納入してしまえばオシマイ型のシステムでは、通用しなくなってきている。
これまで、大きなプロジェクトは、大手企業が元請として施主と契約して、下請けに丸投げもしくは、複数のベンダーに分割発注を行ってきたと云う話を多く耳にするが、技術の鍵を握る下請けが力をつけてきており、発注をするほうも、元請の過去の仕事のやり方がわかってきているため、施主が技術力のあるベンダーに直接分割発注するといったことも行われ始めている。
エンジニアリングと称して、その実、設計をしたのは、下請けの下請けだったりで、実際には元請は何もしていないこともある。ノウハウと称して、作業をしているのは、ほとんどが派遣、外注社員だったりする。このようことを繰り返しつづけていくと、元請メーカの技術力、信用はなくなってしまい、銀行や、商社の口銭ビジネスのように衰退していってしまう。
今後の設計監理の役割とは
(1) 施主になりかわり、施主の真の利益の追求を手伝う。価格競争力も設計技術力のひとつであるから、顧客には、安くていいものを提供するために、マルチベンダで構成するシステムも選択肢のひとつとする。
(2) マルチベンダのシステムにおいて、設計責任を負う。もしくは、設計責任を負う代理人(会社)を選定する。
(3) メーカーの製品が、システムの設計スペックを満たしているか自ら監理し、製品の取捨選択(トレードオフ)をした場合は、その理由の説明責任を果たす。
(4) 末永くシステムが稼動するように、また将来、機器の老朽化によって機器の一部入れ替えがあっても、大幅な設計変更をしなくても済むようにマルチプラットフォーム技術の導入も検討する。
(5) 安くシステムを納入して、高いメンテンンスコストがつくものは、バランスが悪い。これを避けるためにCOTS=民需量産品の活用も視野に入れる。
今後の電気・電子系、情報通信系の設計監理方針は、コンピュータ分野での変革と同じ手法(標準化技術の採用、マルチベンダ・マルチプラットフォームシステムの提案、COTS=民需量産品の活用)を積極的に取り入れることができるように提案したい。
以上